<感傷的な唄>川崎洋作詩・新実徳英作曲
混声合唱曲集《やさしい魚》の第1曲、その真ん中あたり。
「唄好きな蝶番は/他の星から飛んできた風船と/よく話をしていたし/位の低い神様のベンチには/主題のない招待状が/陽に光っていた」
とは何を語っているのか。
まるでシュールリアリズムの絵を見ているようだ。「蝶番と風船」(蝶番のキーキーという唄、異界からの浮いているだけの風船)、「神様のベンチと招待状」(位の低さと、どこへも招いていない招待状)、これは異界への、あるいは幻想世界への誘いではないだろうか。なぜならそのあとにこの詩の主題が語られるのである。
「死んでしまって 肉体がすっかり滅びても 私のもうこの世のものではない耳に 美しい唄だけが 聴こえてくる 」、その唄を詩人は敢えて「感傷的な唄」と呼ぶのである。感傷という言葉にはマイナスのコノーテションがある。いわば「位が低い」。が、川崎洋はここで感傷という言葉を最大級に美しい言葉に変容させたのである。
「そんな祈りが もしかして かなえられないだろか」、肉体のない純粋な魂と唄との交感。人間と音楽の決して実現されない理想郷を語っているようだ。
ジャン・キーツの<ギリシャの壺へのオード>の一節を思い出す。
「聞こえる音楽は美しい/聞こえぬ音楽はもっと美しい/であるなら 私の耳にではなく魂に…」。
川崎洋の詩による五つの混声合唱曲《やさしい魚》 – 音楽之友社
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=544600