<この道>北原白秋作詩・山田耕筰作曲
日本人なら誰でも知っているこの歌謡。この度、妻・美南子と共演することになり(4月24日旧奏楽堂)、あらためて歌詞を読むと、現在の私たちにこのように振り返る道があるだろうかと思われてくる。
久しぶりに訪れる場所に行く時、「そうそう、この道を真っ直ぐ行って、あの先の角を右へ行けばいいんだ」くらいにしか私たちの「この道」はないのではないか。
私の故郷は名古屋市中区車道東町のあたりだが、区画整備・新しい道路と建物で、育った頃の面影は皆無。
東海市芸術劇場はたまに仕事で出かけるが、その地区はかつて太田川(知多半島の根っ子、伊勢湾側)といい、子どもの頃は父に連れられて頻繁に釣りに出かけた場所だが、今や全く別な場所になっている。駅名だけは残っていて、かすかに郷愁を覚える。
子どもの頃から40年経って来てみたら同じ道が同じようにある。そこで初めて生まれる郷愁と感懐。そういった「この道」の成立条件はもはやなく、<この道>という歌謡が郷愁そのものになってしまった。「お母さまと馬車で行ったよ」、そんな旧き佳き時代はとうに終わってしまった。
自身の「この道」に出会える人はいるのだろうか。いるのならその方はもってその幸福を抱きしめていただきたい。
