林英哲を聴く

2021年3月17日サントリーホール
英哲らしい心のこもった挨拶。太鼓の厄除けの力のことなど。来場者への感謝の言葉。
やがて
闇の中から密かに太鼓の二つ打ちが聴こえてくる。ドゥン・ドゥン…ドゥ・ドゥン…地の底から地上に向かって、何かが芽生えてくるようだ。そう、二つ打ちは胎児が聴く母親の心臓の鼓動だ。生命を象徴するリズムだ。第1曲はこの素材が様々な形をとり、力強い持続が作られる。新境地もうかがえる。
すべてが自身の作曲、かつ独奏。腹の中から絞り出るような声、上手いとかキレイとかの領域を超えた感動の歌。英哲のすべてが凝縮しているようだった。
19歳で始めた演奏生活50年のけじめをつけるコンサート。であれば彼69歳、僕は73歳。英哲と同時代人である幸福を改めて噛みしめる一夜だった。
来年5月14日、トリフォニーホールに〈風神・雷神〉が響き渡る。この曲がまさに産声を上げたホールに戻ってくる(新日フィル、指揮井上道義)。もちろん英哲の太鼓。楽しみでならない。
(文中敬称略)