~ベートーベンを弾く~
vol.2
を聴く。
小田裕之(以下敬称略)のピアノは一音一音に躍動感のある、まさに生命体そのものが生まれ出てくるような演奏で、心から魅了された。
全体の構成も実に独創的で興味深かった。このようなプログラミングには出会ったことがない。
ベートーベン(以下B)の「パガテル作品33の第7曲As dur」による始まりはプログラム最後の作品110のAs durに繋がり、次の新実(以下N)の「風は想う」の属調。そしてこの曲は次のc moll(B.ソナタ5番)のナポリ調。
そのc mollのドリア調のN.「風のつぶやき」のFdurを経て平行調d moll「テンペスト」へ。
N.「風のノクチュルヌ」Ges durをFis durに読み替えればd mollの+Ⅲ度調への鮮やかな色彩感の転調。同じ調で始まる シルヴェストロフ「ベネディクトス」は「ノクチュルヌ」と不思議にモチーフの共通性のある作品で祈り歌のような音楽。Ges durで始まりAs durで終わる。そしてこの調性がB.ソナタ第31番に繋がる。
アンコールのB.第3番ピアコンのカデンツ+αはc mollへの回帰。
ざっとこんな風に振り返ると、調性の繋がりの妙と小田の柔らかで、かつ芯のくっきり音楽が我々聴衆を惹き込んでいった理由が分かるような気がする。
次々と音楽会が中止になる中で敢行されたこのリサイタルが与えてくれた悦びは実にかけがえのないものだった。たまに色紙を頼まれると「生きることが音楽!」と記し、自分のサインを加える。そのことを今改めて思う。
(追記:N.作品は全12曲の《風のプレリュード》から)
新実徳英