野見山暁治画文集 目に見えるもの

『野見山暁治画文集 目に見えるもの』(求龍堂)

 先ず画が素晴らしい。抽象画が多いが、不思議な魅力ある歪んだ人物画もある。言葉は少なく語られるが、たとえば―「…常に嬰児の如くあれ」、この言葉ほどぼくに強く訴えてくるものはない。…―などいかにも画家らしい直観のあり方を物語っている。
 そういえば無垢な子どもたちはみんな天才の絵描きで詩人だ。ぼくもそうだった。教育とか分別とかがそれを削り取っていく、と谷川雁さんに言ったら、「削られない人だけが残っていく」と言った意味の言葉が返ってきた。なるほどそういうものかもしれない。
 別なページに「…自然の魂みたいなものを掴み出して、小さい画面の中に、いわば宇宙大に嵌め込む、という術なんだ。…」など、随所に僕自身の直観に響く画と言葉との出会いがある。現在99歳、悠々と生を楽しんでおられることと拝察する。