司馬遼太郎VSドナルド・キーンの対談集を読んでいたら、キーン氏が近松を絶賛するので、ついその気になって「心中天の網島」を読んだ。なかなかに凄い筆致で、最後の心中の場で―…切先喉の笛をはづれ、死にもやらざる最期の業苦。…―と、ここまで書くか、すんなりとは死なせてくれないのである。壮絶な見せ場である。
犬も歩けば棒に当たる、のか、その直後にエッセイ集『詩と真実』(筑摩書房刊)の「艶、深、偉」というタイトルの円地文子のエッセイに出くわしたら、これも近松絶賛の内容だった。曰く、「…近松門左衛門は、源氏物語の流れを汲んだ元禄期の大作家だということです。…」。そうだったのか、目から鱗です。
いつ買ったのか覚えていないほどだが、この期に及んで『日本古典文学全集』(小学館)の近松の巻が役に立つことになった。「女殺油地獄」、「冥土の飛脚」、「槍の権三」などじっくりと読むことになりそう。