全音四人組コンサート③

池田康さんがより詳しいレポートをブログに書いてくださいました。(以下は抜粋)

新実徳英「荒地」は、T.S.エリオットの詩「荒地」に基づいて書かれた曲で、作曲者いわく「エクフラシス」─詩や絵画のエッセンスを音楽に移し替える意味らしい─を方法論とする。ピアノと打楽器(ドラムセットとマリンバ)という編成。とても若々しく、奔放で冒険的で、どこかシュルレアリスティック。それはこの曲の根本的な「柔構造」から来ているのだろうか。つまりピアノと打楽器は音楽としては合わせなければいけないのだが、精確に合わせるのが非常に難しく書かれていて、つねに細かな亀裂が一瞬走っては消えるという危うげな感覚が曲全体を揺らめかせる。きしんだりぶつかったりという不可測の運動が得体の知れないものを追求する若々しさをもたらしていて、そこがなんとも愉快だった。この両パートのきしみは、詩における音韻と意味連関との交錯、さらには書き手であるエリオットと詩の「編集」にかかわったエズラ・パウンドとの関係をも反映すると夢想したくなる。パンフレットの曲説明で作曲者は「スリリング」「奇妙な歪み」といった表現を使っていて、きわめて意図的な制作だったことがうかがわれる。「豊穣と荒廃、秩序と無秩序、……文明とその終末」という詩の読解のイメージを内側に投影した、不埒な生命を帯びた音楽作品と言えるだろうか。pf.=中川俊郎、per.=上野信一