本の話⑨ 『発生と進化』

『発生と進化』三木成夫記念シンポジウム記録集成(哲学堂出版刊)

このシンポジウムは第19回をもって閉じられたのだが、御縁があって、その最終回に講師として参加させて頂いた。錚々たる講師の方々、養老孟司さんや呉智英さんの後で僕は音楽と螺旋について講じた。これは2008年、ピアノトリオを作曲中に「いま書いてる曲は螺旋状に展開している」と自覚したのがその契機になっている。螺旋は三木学の根底に横たわる概念で、そのことに気付いた富山の河合先生のご推薦あってのことだった。詳しいことはいずれのんびりと記すことにして、今回はその書に寄稿された高橋義人氏の「かたち・リズム・おもかげ」と題された文の中にまさに我が意を得たり、という箇所に出会ったので、そのご報告です。
前略…私の考えでは、過去の「おもかげ」を何らかのかたちで表現していない芸術は、やはり薄っぺらな芸術です。芸術とは自己表現ですが、「自己表現」という場合の「自己」には、その芸術家の過去の人生、その芸術家の属す民族の歴史が蓄積されていなければならない。…後略。(ここでの「おもかげ」はドイツ語のBildの訳である。)
このことは常に思いを馳せていることで、昨年末に堤先生が演奏して下さった<横豎>は能の大鼓の掛け声を換骨奪胎したもので、高橋氏の記述はこの作品に真っ直ぐ通底すると直観した。
『古事記』以来の日本の伝統に様々な形で取り組んで来た。素材を使えば良い、ということでは全くない。この5月に初演予定の<Lontano C.>尺八とピアノのために- をお聴きいただければ、そのことを分かって頂き、かつ共感を寄せて頂けるようにおもっている。