Kさんへの手紙

三木成夫先生との出会い

 芸大の学生時代、何度か三木先生の部屋へ遊びに行ったのを覚えています。ご専門が解剖学とは全く知りませんでした。勿論、三木螺旋学のかけらも知りませんでした。「作曲の学生は面白い」と言ってくださり、ひょっとして歓迎されているのかな、と勝手に思ったりしたのでした。。
 ある時、エルンスト・トッホ『旋律学』、クラーゲス『リズムの本質』を読みなさい、と言われ、すぐに買ったのですが、しばらくは積んどく本でした。が、これらは、のちに教える立場になった時、大変に役立ちました。どちらも優れた内容でした。Kさんから、三木先生は江藤俊哉の弟子1号と聞いたのをいま思い出しました。
 螺旋は高校生になった時に教わったDNA.RNAの二重螺旋の構造に感動したことが最初。
 自分の音楽にイメージとして登場するのは90年代前半のオルガン曲〈風の螺旋〉、これはのちに〈風神・雷神〉に発展します。(ちなみに2022年5月14日トリフォニ―にてオケ版の演奏が予定されています。)
 90年代後半のN響委嘱作〈焔の螺旋〉は命の焔が螺旋状に上昇していくイメージ。具体的には蓼科の夕方から黎明まで音化です。そのほぼ10年後、ピアノ・トリオを書いているときに螺旋形式という概念に行き当たったのでした。これは変奏曲の概念を拡大変容させたものです。

 この地上のあらゆるもの、そして宇宙全体を貫くものが螺旋であり波動である、という事実に感動します。
 その感動は『神秘主義とアメリカ文学』(志村正雄著)で出会ったゲーリー・スナイダーの言葉「宇宙は巨大な、呼吸する肉体である」や「息とは外側の世界が自分の体の中に入ってくることである…脈といっしょに私たちのうちなるリズム感の源である…」(p168)につながっていきます。
 科学的事実と神秘が別なものではない、と知ったのでした。
 学ぶということはありがたいことです。人生に目的はない、と歌った詩人がいますが、もしかして生きることとは「学ぶ識る、それを楽しむ」、そんなことかもしれない、と思ったりします。

 コロナ禍が収まらない状況下、いろいろご苦労がおありでしょうが、どうかくれぐれも気をつけてお過ごしください。夜毎マーラーに親しんで癒されると記されました!充実した日々を送っておられるのをとても嬉しく思っています。

新実徳英