2021年8月29日14時開演、「芸術家の家」スタジオ
ベートーベン:ピアノソナタ第29番”ハンマークラヴィア”(1818)
田中達也:ピアノのための4つの前奏曲ー立原道造の詩による(2015)
新実徳英 :ピアノのためのエチュードー神々への問 第4巻(2018)
どのステージも小田裕之のピアニズム満載の豊かな音楽に溢れて、それぞれに説得力があり、大いに感銘を受けた。ピアノはスタインウェイの155センチ小型グランドピアノ。このピアノから実に多彩な響きを紡ぎだす。とくにp、ppの音色が美しく、吸い込まれるようだった。敢えて難を言えば、至近距離で(40名くらいの会場)ffを聴くので、時に耳が「痛い」。が、これはピアニストの責任では全くない。聴衆はピアノの響板から真っ直ぐ上に立ち上がる、いわば直接音を聴くことになるからだ。彼本来のffは深く広がりのある、包容力のあるサウンドである。
以下、自作について記す。
「神々への問」とは、答えのない哲学的な問で、これを神々(the Gods)に投げかけるというもの。エチュードは各巻3曲で全12曲。第4巻は X. 花はその美しさを知っているのか? XI. さまよう魂は最後にはどこへいくのか? XII. 永遠とは何か? で構成され、各々に多少の関連性が持たされている。
第3巻、第4巻はこの8月に出版されたばかりなので、間違いなく初演以来初めての演奏である。初演と今回の再演は会場も楽器もまるで異なるので比べられない。一つ確かに感じられたのは初演寺嶋陸也と再演小田裕之のそれぞれの持ち味の違い、いわば音を外部からどのように捉えるのか、そして内部にどのように入り込むのか、その違いが微妙に全体像に顕れたように思われ、大変に興味深かった。
名手が自作に生命(いのち)を吹き込んでくれる、ありがたくも贅沢な場❗ 蓼科の山小屋からドア トゥ ドアの最短が片道3時間。出かけて行って良かった、佳き場をいただいたとつくづく感謝しつつ、帰りの車中での作文でした。(文中敬称略)