ブライアン・ファーニホウの音楽
2022年5月24日 東京オペラシティ

ブライアン・ファーニホウの音楽
2022年5月24日、東京オペラシティ コンサートホール、19時開演
指揮:ブラッド・ラブマン
演奏:アンサンブル・モデルン
クラリネット:ヤーン・ボシエール
曲目:
①想像の牢獄 Ⅰ(1982)
②イカロスの墜落(1987~88)
③コントラコールピ(2014~15)
④クロノス・アイオン
以下は僕の印象評です。

①②かなり無機的に響く。細かな音が一杯書かれているが、それらはいわば音の粒子が散乱している量子力学的状態。全ての音符は確定的に書かれているが、旋法的では全くなく、旋律的にもリズム的にもユニゾンはなく、中心音もなく、全体を運んで行くリズム体もない。
まるで大地に根差すのを拒否し、中空を漂流するかのようだ。そのために全力が使われているとすら思われてくる。「作曲のための作曲」と言って良いだろうか。が、その驚くばかりの書法には感嘆を惜しまない。

③は超絶技巧のクラリネット協奏曲。ある極限的精神の表出を感じる。クラリネットは低音域も魅力的だが、それを聴かせることはなく、中・高域を激しく往き来する。
終わりの1/3くらいからピッコロとの絡み合いが魅力的。まるで精神の不可思議な領域でのやり取りのようだ。互いが互いの音の残像として響き合う。

④はそれらを超えた高みにある音楽として聴いた。音のたゆとうそこここに天上の「歌」が印象的に聴こえてくる。
28分の1楽章形式の曲で、全体は五つか六つの部分から成るだろうか。
それぞれの部分の有機的なつながりも感じられる。
彼の書法でしか実現できない精緻な叙情を堪能できた。

いったいにこの作曲家の感性は中高域、とくにト音記号五線譜の上にはみ出た高域の刺激性にあるようだ。
ともあれ、自分の裡の知性と感性の粒子が存分に揺さぶられた演奏会であった。