本の話 ③ 『イワン・デニーソヴィッチの一日』

『イワン・デニーソヴィッチの一日』

A. ソルジェニーツィン著、江川卓訳、毎日新聞社刊

旧ソ連の収容所での生活が描かれる。著者自身が8年の刑を受け収容所で暮らした経験に基づいて書かれているのは明らかだ。
不快、惨め、悲惨、辛さ、悲しさ、それらに取り囲まれた生活がひしひしと伝わるが、文章は陰陰滅滅としない、むしろ明快で力強い。収容所という非人間的な場にあって、人がどのように生きるのか、その生きる力、知恵、逞しさが独特の「尖った」文体で鮮やかに、たたみこむように展開されていく。
作家の人間や事象のさまざまに対する観察眼にはいつも敬服させられるが、ここにあるのは過酷な環境を乗り越えたそれと思うとき、著者の人間のスケールの大きさに改めて感動するのです。
1918年生まれ、2008年没、1962年著者44歳の時の処女作。発表されるやいなや世界中から注目を集めたとのこと。間違いなく一読すべき作品。

平行してチョイ読みしている『吾が輩は猫である』も別な意味で凄い作品。猫が人間を観察するというアイデアがまずとんでもない。こちらも処女作、漱石40歳。